粉砕者の日記

昔ながらの観光地、プロレス、寄席、映画、職人芸、人間の業、怪しいモノに目がない団塊ジュニアの日記

【ケイコ 目を澄ませて】岸井ゆきのの素晴らしさ

2週前に鑑賞。
良い意味で考える余白が多く、客観視できるまで時間を要しました。

感音性難聴の障害を持つ女子プロボクサーが主人公。
実在の人物をモデルにした作品です。

主人公はおろか、登場する人たちの心情が全く説明されません。
登場人物の会話(手話の字幕含む)も極めて少なく。
まるでドキュメンタリーのように、ただただ、時が過ぎゆくのみ。
BGMも(ほとんど)ありません。
一方で、電車や雑踏の音が、やや耳障りなほどクリアに入っています。

それでも終盤に掛けて、激しく心が揺さぶられました。
心に残っているシーンは以下。

・トレーナーとのミット打ち
・友人たちと笑顔で交わす手話(字幕なし)
・会長と一緒におこなう(スローモーな)シャドー
・パンチを喰らい、膝から落ちてダウンする様
・病院で力強く車椅子を進める会長
・ボクシングジムでの記念撮影
・河川敷で再開した対戦相手の顔

分かり合うのは難しいけど、繋がれるかもしれない。
そんな希望があるから生きていけるんだな…なんて映像を観ながら思いました。
この解釈の良し悪しは分かりませんが。

ロケ地は荒川だったり、浅草だったり、東京の東側。
私自身が、なぜ東京の東側が好きなのか、よく理解できました。
人々の暮らしの陰影がくっきりしていて、何とも言えずブルージー

何はなくとも、主人公の岸井ゆきのが素晴らしい。
伝わらない、そして伝えようとしない姿勢や、何かを抱え込んで何かと闘っている哀しみが、体中から発散されていました。
『百円の恋』以来のファンである、トレーナー役の松浦慎一郎も最高。
ミット打ちを通じたコミュニケーションは、数少ない希望や期待を感じるシーンでした。
とはいえ、何といっても、会長役の三浦友和ですかね。
優しさ、苦悩、虚しさ…などなど、極めて抑制された動きと言葉で感じさせてくれました。
「あの子は目がいいんですよ」は、ものすごく沁みる名言です。

感想というにはチープですが…。
何はなくとも、素晴らしい映画でした。

私にとって良い映画とは「身につまされる作品」です。

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