粉砕者の日記

昔ながらの観光地、プロレス、寄席、映画、職人芸、人間の業、怪しいモノに目がない団塊ジュニアの日記

【グッドバイ、バッドマガジンズ】奇抜な設定の「普遍的な物語」

先日、ようやく観てきました。

予告編を観た時からずっと気になっていた作品。
結論からいうと、近年稀にみる傑作でした!
事前にほぼ知識を入れていなかったので、良い意味で大きく裏切られました。

舞台は2018年、サブカル系の出版社。
カルト的人気を誇るサブカル誌の編集になるために、女子大生が面接を受けているシーンからスタートします。
上手く丸め込まれて配属されたのが男性向け成人雑誌
しかも、初出社日に「目指していたサブカル誌」の休刊が決まるという悲劇。
東京オリンピックに向けて大手コンビニから成人雑誌が排除されるという逆風の中、新人女性編集者が「望んでいない本創り」に奮闘する…というストーリー。

設定からして、R18的なコメディと思うわけです。
でも、R18的なシーンはほぼ無くて(PG12)。
多少のコメディ要素はあるものの、中身はかなりシリアスで、終盤は眼からハラハラと涙。
鑑賞後、哀愁や余韻が数日間残りました。

思うに、時代が急速に変化する中で「取り残される人たち」を丁寧に描いていたからではないかと。
そして「傾いた組織が一気に壊れていく様」がこれでもかというほど盛り込まれており。
もう共感できるポイントが多すぎて、多くの観客が笑っているところでも、私は鼻をグジュグジュさせていました。

物語が進むにつれ、職場に最適化されていく主人公。
(成人向けページのキャッチを数秒で書くとか)
仕事に慣れて自信が芽生えはじめたタイミングで訪れる「看過できない状況」そして「感情の爆発」。
「私たちはこんなことするために本なんか作ってるんですかーッ!?」という叫びに心が揺さぶられました。
みんなが当然のこととして諦めているものに異議を唱えるのは、いつだって若者。
そして、絶望の中で希望の芽を作るのも若者です。

それにしても登場人物の多種多様なリアルさたるや。

不正に手を染める管理職
家庭のストレスを他所に手を出すことで埋める人
新人の入社で復活し、そして責任を取る鬼上司
理想を語って「何もできない」真面目な人
プライドを捨てられない異動者
仕事を抱え込み過ぎる先輩
編集に嫌われる営業
パワハラ営業部長
会社を残すことが目的化した経営者

思わず「いるいる!」と叫びたくなる人物たちの中で、最も共感したのは「編集部で唯一マトモな人」と言われている編集者。
業界内で評判がいい、どこでも通用する、一緒に仕事したいと誘われても、謙遜しながら巧みにはぐらかします。
そして、取引先には卑屈なほど頭を下げていて。
終盤、誰もいなくなった「綺麗な編集部」で、ひとり仕事をしているシーンに涙腺が緩みました。
それは責任なのか、それとも逃げなのか、と。

そして演じる俳優陣。
キャストを見ても誰一人として知らなかったのですが、もう本当に全員が素晴らしく。
特に主人公の杏花、伊勢崎役のカトウシンスケは、売れっ子俳優になっていく予感(既に知る人ぞ知る存在のようですが)。
局長役の山岸拓生、鬼上司役の春日井静奈も良かった!
こういう出会いがあるから単館系作品は止められません。

エキセントリックな設定で描かれた「普遍的な物語」。
編集部と名の付く場所にいた人、アナログからデジタルに変わる職場を体験したことがある人、そして縮小する産業にいた人は、ハンカチが必携です。

ちなみに、終盤に起こる事件は「主人公の妄想だった」というのが私の解釈。
だからこそ、面白い本を創る遺伝子が引き継がれるというものです。
その解釈を再確認するためにもアンコール拡大上映を猛烈に希望します!

あ、エンディングテーマの『パレード』(ナギサワカリン)もメチャクチャ痺れます。
蘇える金狼のテーマ』を初めて聴いた時のようなブルージーな感覚になりました。
まさにハードボイルド歌謡!

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