粉砕者の日記

昔ながらの観光地、プロレス、寄席、映画、職人芸、人間の業、怪しいモノに目がない団塊ジュニアの日記

【さかなのこ】のんがリアルに演じるパンキッシュ・ムービー

知人に勧められて観ました。

実は、観る前、少しネガティブに捉えてまして。
決して脚本家云々の話ではなく。
(私は “これはこれ” “それはそれ” 派)
さかなクンの半生を映画化することに、しかも女性である「のん」が演じるということに、突っ込みどころのない〈完璧さ〉を見せられるのではないか…との危惧。
キラキラした純粋さやリベラルさというか。

私にとっては「さかなクン」も「のん」もアナーキーかつパンキッシュな業深い人。
そこが大好きなので、妙に人間化されていたら嫌だな、と。

果たして、その懸念は杞憂でした。
もう、分かり合えなさ全開で最高!

他者に一切忖度せず、好きなことしかやらない。
研究職に就くために勉強するなんてこともしない。
ただただ、ずーっと魚を観て絵を描き続ける。
子どもの時から大人になっても一切変わらない。
社会性が全くなく、他者に迷惑をかけまくる。

終盤、私ははらはらと涙を流しました。

主人公の純粋さ…ではなく、この純粋さに影響を受け、そしてその純粋さを何とか守ろうとする市井の人たちの優しさに。
天才に振り回される(振り回されたい)凡人たちの想いに。

物語の前半に登場するギョギョおじさん。
(何と、さかなクン本人が出演!)
このギョギョおじさんと、主人公のミー坊は全く同じ「クレイジーな魚マニア」ですが、周囲からの観られ方は全く異なります。
街の危ない変人、愛すべき異能の人。
この差を分けたのが、周囲の理解なんでしょう。

母親は「クレイジーなミー坊マニア」。
友人は「社会に反発する不良たち」。
でも、社会に適応せざるを得ない経験により、変わらないミー坊を守護する存在になります(と思われます)。
それが丁寧に説明されるわけじゃないんです。
サラリとした変化として描写されていて。
(一軒家がアパートになり、お母さんが遅くまで働いている等)
その風景の変化から、主人公から受けた影響と想いをひしひしと感じるわけです。
その積み重ねが、涙として溢れました。

途中、主人公の目の前に人生の分岐点が現れます。
本人は社会適応を選びかけますが、友人が主人公を思いやって「好きを続ける道」を選ばせます。
その際に描いた魚の絵が本当に美しかった。

クライマックスで堤防を駆け抜けて海へ飛び込む姿に、あまちゃんへのオマージュと「誰とも分かり合えずに突き進まざるを得ない凄み」を感じました。
紛れもなく「のん」と「さかなクン」の映画ですね。
のんがどこに行くのか、とても楽しみです。

たぶん、もう1回は観に行くと思いますー。
蛇足ではありますが、柳楽優弥も最高。
柳楽くんの苦笑いと照れ笑いは値千金です!

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【サバカン】竹原ピストル&尾野真知子だけでも一見の価値あり

少し前に観に行きました。
いやあ、本当に良い映画でしたー。
あまりまとまっていませんが、取り急ぎ感想を。

舞台は80年代の長崎県長与町
小学生2人の「忘れられない夏休み」を描いた、まさに和製スタンド・バイ・ミーです。
何しろ、主人公は自身と同世代。
共感できるシーンが山ほどあり、何度となく目頭が熱くなりました。

作品を貫くキーワードは「またね」。
お互いをニックネームで呼ぶ瞬間、そして「じゃあね」ではなく「またね」に変わる瞬間。
何だか、胸の奥がムズムズするような、そんな甘酸っぱい気持ちを思い出しました。

でも、男の子同士の楽しい夏休みだけではなく。
貧しさだったり差別だったり、地方ならではの重めのテーマが、声高に主張されることなく、ひっそりと描かれています。

映画のレビューに「この時期はバブルだから、こんなに貧しいわけはない」なんて書いていた人がいましたけど…地方を舐めるなと言いたい。
この作品での描かれ方はまだオブラートに包まれているほうで、実際はもっとハードコアに貧しい子どもがたくさんいました。
貧富の差は洋服や足元に出ます。
この作品では「毎日ランニングシャツ」。
からかわれるシーンを観て、自身の子どもの頃を思い出し、途方もなく胸が痛みました。
良い映画は「身につまされるもの」だと再確認。

そして、こちらの作品、俳優陣が最高なのです。

第一に、草彅剛の出演作にハズレなし。
抑えたナレーション、ラストの笑顔が最高でした。

何より、竹原ピストルの素晴らしさ。
どこか抜けていて、ガサツで怖くて、でもたまらなく優しい昭和の父親を好演。
自身の父親を思い出し、ジーンとしました。
こういう役をやらせたら日本一ではないかと。
(首からタオルをかけている様が日本一似合う)

尾野真知子、岩松了にも痺れました。
どう見ても長崎の田舎の住人という佇まい。
「おとなのキレ方」が何とも懐かしく。
あ、よく考えたら、好きな俳優ばかりでした。
そりゃ、感動もするはずだ。

言うまでもなく、主人公の子役ふたり。
とても素朴で、とても自然で、没入できました。
素晴らしかった!

本当に良い作品でした。
私の中では『野球部に花束を』と甲乙つけ難い。
今年は映画の当たり年です。

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【野球部に花束を】今、最もパンクなのは「部活」だ!

予告編を観て以来、何となく気になっており。
高校の部活、小沢仁志、電気グルーヴなどなど、脳内フックに引っ掛かってくるキーワードばかり。
ということでお盆の最中、ひとりで観てきました。

果たして…これは紛れもない傑作!
昨年夏に『いとみち』を観た時に近い衝撃でした。
(方向性から俳優陣まで真逆ではあるものの)

これ、学生時代に部活をやっていた「男子」であれば、間違いなく心揺さぶられると思います。
エンドロールで言葉にできない感動に浸りながら、改めて「部活は日本が誇る文化である」と再認識しましたから。

本入部の後に先輩たちが激変するという伝統芸
代々受け継がれている謎の儀式
(それが許される閉鎖性)
哲学と狂気がカオスに内在する部活動顧問
とても同じ10代とは思えぬ貫禄の3年生たち
どうでもいい理由で退部を悩む同級生
ほんの弾みで好きになってしまう思春期マインド
同じ部活の同期というだけなのに、いつの間にか親友になっていくシステム

ああ、次から次に部活賛美の言葉が溢れてくる…。

で、この作品の大きな魅力は「そんなに強くない」ということなんですよ。
当然、目指すのは勝利なんですけど、甲子園に出るなんてことは考えていないんですよね。
強豪私立にはコールド負けする「都立の中でそこそこ強い高校」という圧倒的リアリティ。
その枠組みの中で、無駄なことも含めて全力疾走する様こそ、まさに青春なのです。
青春はクレイジーで、部活はまさにパンク。
そこに教育的価値を詰め込もうとする行為自体、狂気がないとできない仕事ですよ。
(だから、令和の今、奈落の底に落ちる部活顧問たちが続出しているわけで)

加えて、こういったテーマの面白味のみならず、俳優陣の素晴らしさたるや…。

主演の醍醐虎汰朗には感動しました。
こういう地顔が良くて、少し小柄な「その代のリーダー」って、めっちゃ多いと思うのです。
別に頭がキレるわけでも、技術が高いわけでもないのに、何か変に人望があるヤツ。
また、表情がいいんですよ。
怯える顔、茫然とする顔、そして喜ぶ顔。
男として「羨ましさ」を感じましたね。

そして、高嶋政宏の怪演。
こんなにマッドで突き抜けた顧問役をできるのは、日本の俳優でも少数なのでは、と。
冷たい熱帯魚』で、でんでんを観た時に近い衝撃がありました(少し盛っています)。
シド・ヴィシャス的というか、何というか。
これはもう代表作でしょう、間違いなく。

併せて、今作品の目玉でもある小沢仁志。
予告編でも描かれているのでネタバレじゃないのですが、あくまで「新入生が3年生に感じたイメージ像」。
つまり「小沢仁志に見える」というだけなのです。
この小沢仁志の使い方は、ある意味で革命だと思うんですよ。
初めて3年生たちと顔を合わせた内面の衝撃を表現するには、これ以上の配役はないでしょう。
(ユニフォームを着た「小沢仁志たち」がグラウンドを歩いてくる様は圧巻でした)

他にも語れる俳優たちが盛りだくさん。
前田智徳のような無口すぎる先輩とか(見た目はどう見ても40代)。
新入生に自己紹介させる儀式で「お前は!誰だ~!」と叫ぶ先輩も素晴らしかったなあ。
もちろん、儀式で最高なのは、坊主頭にする時に「ええねん!」と歌う小沢仁志なんですけど。

ああ、今後も観続けたい作品に出会えた喜び。
今日の観客の少なさからして、早々に上映館が減っていくものと推測されます。
「高校の部活動マニア」は、予定をキャンセルしてでも、早急に観に行くべき作品です。
(部活に興味がない人は、コンプラ的不快感満載なので、観ないほうが無難です)

とりあえず、私は再度観に行きます!

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【トップガン マーヴェリック】ビバ!80's!

ついに鑑賞しました。

実は86年のトップガンをよく覚えておらず。
ゴールデン洋画劇場で観た気はするのですが。
ほとんど思い入れがないため、映画館に行く気力が湧かなかったのです。
とはいえ、あまりに多くの人から勧められるので、渋々、足を運んだ次第。

果たして…面白かったー!!!
なぜ、行くことを渋っていたのか?
バカバカバカ、オレのバカモン!
プロレススーパースター列伝のA猪木のセリフ)

何というのでしょう…。
久しぶりにハリウッド映画を観た!との感覚。

とにかくカッコいいパーフェクトな主人公
いけすかない上司(でも本当はいい人)
生意気な若者たち(でも素直ないいヤツら)

太陽!海!そしてマッチョ!
カワサキスーパーホーネット!トムキャット!

お金を掛けまくったド迫力の戦闘シーンに手に汗握り、最後はスタンディングオベーション

ああ、ビバ80's…。
40代以上には感涙ものの作品ではないかと。

意外に「どれだけテクノロジーが発達しても、最後に頼れるのは人々の熱い心だ」的なメッセージが込められていたりして(これもハリウッド的)。
あ、もちろん全編通じて「男なら速いマシンを乗りこなせ」的なマッチョイズムは満載ですけども。

こりゃ2〜3回は観なければならない傑作。

何はなくともカワサキです。
Tシャツ&ジーパンにフライトジャケットを羽織り、広大な大地をカワサキで突っ走るシーン(ほぼオープニングあたり)に涙しました。

ありがとう、マーヴェリック!
86年版をちゃんと観て、また映画館に行きます!

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【バケモノの子】日本アニメとミュージカルの融合

四季劇場「秋」に行ってきました。
映画を観ておらず、どんなストーリーかも分からない中でしたが、四季ならば間違いなかろうと。

父と子、そして巣立ちの物語。
冒頭からエンディングでの感動が予感されて目頭が熱くなり、案の定、終盤は涙が流れっぱなし。
歳のせいか、すっかり涙腺が緩くなりました。

驚いたのは没入感ある舞台装置。
スクリーンに映る映像の美しさ、回転して立体的に見せる家、幻想的に怪しく舞う白鯨などなど。
そして、圧巻の歌とダンス。
目と耳を通じてダイレクトに心に響く迫力。
四季ミュージカルの凄みを見せつけられました。
ただただ、面白かった!

もう1回ぐらい観ておきたい作品。
とりあえず、映画版も観ようと思います!

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【ベルファスト】紛争とノスタルジー

アカデミー関連で興味を持ち、観てきました。
1960代末の北アイルランドが舞台。
日常の暮らしが少しずつ壊れていく様子を「子どもの目線」から描いた、とても硬派な作品です。

観終わった感想は「映画を観たー!」。
モノクロなのに美しい映像、登場人物の喜怒哀楽、そして沁みるラストシーン。
恥ずかしながら、北アイルランド問題のことをちょっとしか知りませんでしたが、描いているのは「家族と故郷」なので、十分に楽しめました。

どんな環境でも、どんな時代でも、子どもたちは元気に遊んで悪さもするし、夫婦は揉めても仲直りするし、お母さんは温かくて厳しいし、お父さんはカッコいいし、おじいちゃん&おばあちゃんは底抜けに優しいし。
でも、長屋的なアパートの隣近所まで家族のように付き合うという関係性の濃さは、もしかすると60〜70年代で終わったかもしれません。

映画を観ながら、子どもの頃に住んでいた九州の団地の様子が何度となくフラッシュオーバー。
たまらない郷愁に駆られました。
私の祖父も炭鉱で肺をやられ、父は建設業の職人だったこともあり、途方もなく身につまされる作品でした。

おじいちゃん&おばあちゃん役の俳優が、とにかく素晴らしかったなあ。
ラストシーンにとにかくジーンとしました。

政治的な対立が故郷を壊していくという、社会派の分厚い作品なんですけどね。
私は「昭和的ノスタルジー」で観てしまいました。
良い映画でした!

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【コーダ あいのうた】普遍的な巣立ちの物語

観てきました!
何しろ、ミーハーなものですから。

聴覚障がいの家族の中で育った女子高生(健聴者)が、歌を通じて「外の世界」と「家族」の狭間で葛藤し、そして自分の道をみつけていく「巣立ちの物語」。

とてもベタなあらすじですし、聴覚障がいを扱ったテーマである以上、どこか啓発的で型にはまった映画なのかな…と斜に構えていたのですが。
これがもう本当に型破りでビックリ。

家族が驚くほど下品で人間臭く。
手話で語られる言葉は極めて汚く、興味関心はお金・大麻・アルコール、そして性生活。
(母親はオシャレや露出の高い服が大好き)
映画の途中から「主人公以外の家族は耳が聴こえない」という設定が「デリカシーのない家族に振り回される女の子」に脳内転換され、コメディを観ているように何度も吹き出しました。

何というのでしょう。
コミュニケーションの道具は手話なれど、その中身があまりに下衆ゆえに、障がいだったり手話だったりの「突っ込めない健全性という違和感」が全くないというか。
同じ人間だと無理して言い聞かせる感覚はなく、自然に「どうしようもないな、この家族」と思っていました。

でも、途中、障がいがないゆえの疎外感が家族と主人公の双方に深く横たわっていることが分かります。
それが途方もなく切なくて。
ただ、子どもの才能を理解できず(しようとせず)自分たちが信じる幸せの中に閉じ込めようとするのは、親子の普遍的な葛藤なのだとも思います。
それが聴覚障がいという如何ともし難いものにより、より強化されて実感できてしまうというか。

主人公と家族が、その壁を(ある意味でサラッと)乗り越える様に感動したし、ラストの数分間は嗚咽を漏らすほど涙しました。
この作品、主人公目線のように見えて、父親とか母親目線なんですよね。
とても、とても、身につまされました。

いろいろと整理できずに書き連ねましたが、結論として「素晴らしい作品」ということです。
主人公のエミリア・ジョーンズの瑞々しさ、父親役のトロイ・コッツァーの佇まいは、間違いなく一見の価値があると思います。
いやあ、いい映画だった!

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